『デミアン』ヘルマン・ヘッセ

 風景はいつだって心が決める。
 デミアン(デーモン)は誰の心の中にもいるんだよ。誰かを憎いと思ったら、それは自分の中に宿っているものなんだ。そうじゃなかったら興味ももたないでしょ。自分の奥の方に潜んでいる感情が拠り所だ。これはピアスにも、小川洋子にも、フランクルにも通じている。
 10歳の少年シンクレールが、その場をやり過ごそうとついた嘘によって、不良少年からとんでもない仕打ちを受けることになってしまう。少年時代の苦しみを再現している描写は息が詰まるほどリアルでうまい。誰もが思い当たるような懐かしくさえあるこの少年の内面世界はついに小説を読み終えるまで、今にも降り出しそうな雨雲のように物語世界を覆っていた。作家ってすごい。心象空間を自在にあやつってるみたい。
 後々音楽家ピストリウスがシンクレールに語っている。「我々の見る事物は、われわれの内部にあるものと同一だ。われわれが内部に持っているもの以外に現実はない」との主張だ。
 いろんな解釈ができるだろう本作は、若い時に読んでみたかった。と思いつつも、ヘルマンヘッセのような大作家との出逢いが国語の教科書というところが、コトをつまらなくしているんじゃないの。
 この小説はこう読め、なんてヘッセは言わない。風景はいつだって心が決める。(2019.2.26)

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