4つの短編からなるこの本はとても好きで、時々に読み返します。父あるいは弟とのあいだにある私の心の動きを、それぞれ美化せず正直に捉えつつ、こんなにも美しく書けるものなんだと感心するばかり。
表題の「百」のほか「連笑」「ぼくの猿、ぼくの猫」「永日」という短編が、父と弟と私のそれぞれの外伝(Another Story)になっているような関係性が面白い。中上健次なら『岬』『枯木灘』と『鳳仙花』のように、白土三平なら『カムイ伝』と『カムイ外伝』のように、すぐれた物語とはそもそもそういう多視点、多焦点で、多層的に描かれるものなのかもしれません。
もしあなたが小学校の教室でのある場面を思い出すとして、いつも見えていた景色(まなざし)の反対側をのぞいてみると(記憶の限りで思いだしてみると)、おとなしく座っていたあの子、あの子から見えている教室またはぼく、そんな視点と想像力が物語なのだ。(2017.9.16)
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『百』色川武大
- 『春宵十話』岡潔
- 『小説は君のためにある』藤谷治
- 『キリンのまだら』平田森三
- 『雷電本紀』飯嶋和一
- 『堕落論』坂口安吾
- 『日本美の再発見』ブルーノ・タウト
- 『フランスの大聖堂』オーギュスト・ロダン
- 『塩の道』宮本常一
- 『明恵 夢を生きる』河合隼雄
- 『いちばんここに似合う人』ミランダ・ジュライ
- 『トムは真夜中の庭で』フィリバ・ピアス
- 『夜と霧』V・E・フランクル
- 『献灯使』多和田葉子
- 『エデンの恐竜』カール・セーガン
- 『脳のなかの幽霊』V.S.ラマチャンドラン
- 『生物の世界』今西錦司
- 『春の数えかた』日高敏隆
- 『百』色川武大
- 『忘れられた日本人』宮本常一
- 『地の底の笑い話』上野英信
- 『五重塔』幸田露伴
- 『百億の星と千億の生命』カール・セーガン
- 『火山のふもとで』松家仁之
- 『鳩どもの家』中上健次
- 『生きられた家』多木浩二
- 『なにもかもなくしてみる』太田省吾
- 『小説熱海殺人事件』つかこうへい
- 『人類が生まれるための12の偶然』眞淳平
- 『河童の三平』水木しげる
- 『かばくん』岸田衿子作 中谷千代子絵