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『火山のふもとで』松家仁之

 『考える人』の創刊編集長でもあった松家さんのデビュー作。フランクロイドライトに師事した建築家と、その事務所へ所員として入った男を主人公として、物語は展開します。設計事務所にまだ手仕事のぬくもりがある頃の空気が、見事に文学に昇華されていてうれしい。
 ぼくが象設計集団に入ったのは、コンピュータが事務所に一台あったかなかったかという時代。鉛筆の削り方を教えてくれたのはSさん。鉛筆の芯を1cmくらい大きく削りだして、芯研器で研ぎだす。船の帆先みたいに芯先が丸みを帯びるように研ぐことは、それ以来つづく所作です。
 小説の中、所員みんなが2cmになるまで使い切ったステッドラーの鉛筆を、まとめて梅酒の大きなガラス瓶にいれておくというシーンがあります。ぼくも使った鉛筆は捨てられない質で、今も木の箱にたまったまんまです。これほどCADが普及しても、手仕事の楽しみは今もやめられません。