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『小説は君のためにある』藤谷治

 小さい頃からの読書経験が少ないため、そもそも話をあまり知らない。建築は誰のためにあるのかと考えているタイミングだったので、あまりやらない衝動買いをした。
 誰も知っていることなのかもしれないが、小説というのは小さな説だということ。反対は大きな説で正史のこと、国家や政治のことを士官が記録したものらしい。三国志とか。小説は言ってみれば、大したことのない話を説くというような意味合いになる。士官より低い身分に稗官というのがいて、稗官が庶民の話を聞いて歩いてまとめたものを稗史と言っていた、それが小説の始まり、現に明治時代までは小説のことを稗史とも言った。
 史実に基づいた正史が事実を書くものとすれば、小説は名もなき人(架空でもいい)をもとに真実を描く。つまり小説はどこまでも自由だ。小説は読者を楽しませてもいいし楽しませなくてもいい、人のことを考えてもいいし考えなくてもいい。もちろん読む側の自由も保障されている。建築の自由と言ったって建築はこうはいかない。その分自由の名の下で、小説家というのは建築家よりも身を削るように苛烈な仕事に違いない。
 だからこんなふうに、そもそも建築の、あるいはデザインの完璧な定義を知りたい。(2018.12.31)