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『明恵 夢を生きる』河合隼雄

 ながきよの夢をゆめぞとしる君やさめて迷へる人をたすけむ 明恵
 この歌は彼の出家を導いた叔父の上覚の次の歌への返歌である。
 みることはみなつねならぬうきよかなゆめかとみゆるほどのはかなさ 上覚
 ふたつの歌を比較することで、明恵の考察の深さと合理性を示している。
 さて自分の思考は長いあいだ、あきらかに上覚的昏迷であって、明恵的覚醒へのあこがれがずっと心にあった。建築でも音楽でも文学でもぼくが最初に好きになるのは決まって上覚的なもの。感受性が情に流されすぎるのだ。そんなコンプレックスの源をわかりやすく解き明かしてくれるような河合の分析が冴えていて、こんなにありがたいことはない。明恵に会いたいと京都高山寺にも行った。僕自身30代からみる夢は奇妙なものばかりなので救われる思いもある。
 明恵は法然、親鸞、道元、日蓮と同じ鎌倉時代に生きたけれど、彼らのように新しい宗派を起こしたわけでもない。しかし善と悪や生と死といった観念をわかりやすく分ける法然、親鸞らに対して、それらを包含して覚醒していこうとする態度は混迷の世の中にあっては現代的だ。後者をコスモロジー的な思考と位置づけて、前者のイデオロギー的な思考を超えていこうとやさしくいざなってくれている。(2018.3.18)