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『生物の世界』今西錦司

 京都の賀茂川でカゲロウを見つめている生物学者のその眼差しは、環境、社会、地球を見据えています。棲み分け理論という発見はそれほどに視野が広い。だから広まった。
 生物にも社会があるといい、社会性とはどこまでも相違なるものの世界においてどこまでも相似たものが存在するという世界の構造原理を反映している、それはこの世界をかたちづくるあらゆるものにある根本的性格かもしれない、といった具合に時に類推がどんどん進んでおいてけぼりを食らいますが、読んでいるとなんだか嬉しくなるのです。
 〈生物〉や〈世界〉と同じくらいに本書では〈環境〉という概念が繰り返されるのですが、生物が生きるということは身体を通した環境の主体化であり、また身体を通した主体の環境化であるという言い方をします。今西によればダーウィンは環境の主体化を考えていないということになる。吉阪隆正の『環境と造形』はここらあたりに発想のルーツがあるのではないかな。
 まぁとにかく環境から取り出して生物を見るのではなくて、環境も含めて生物をとらえていかなくてはならない、そして環境さえ生物と同じもとをただせば一つのものから生成したんだと、それがわれわれの世界であるという大きな世界観がまずあるわけです。
 戦中に遺書のつもりで書き上げられたというけれど、まったくとんでもないイマジネーションを建築にももたらしてくれます。章立てもそのままにこれが建築なのだと言ってみたい。1相似と相違、2構造、3環境、4社会、5歴史。『建築の世界』というタイトルでこれほどわかりやすく示唆に富む文章を誰も書けやしません。