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『塩の道』宮本常一

 『忘れられた日本人』と『塩の道』の2冊はとっても驚いた。そこから宮本の著作に没頭する。『日本文化の形成』も『ふるさとの生活』もいい。
 塩。その小さな対象にクロースアップすることから、世界が、空間が、無尽蔵に語られていく。そのことの驚き。どんな高尚な哲学よりも、確かな手ごたえを伴って世界を、人間を把握できるという確信に満ちている。その時のぼくはこんなふうに<建築>を把握したいと羨んだ。
 牛。牛は野宿ができて道草を食うから餌代がかからない、庶民の暮らしに欠かせない塩を運ぶのは藩に管理されていた馬ではなく牛で、その道は街道からそれた脇道だった。塩魚を山へ運ぶ、それがなれ鮨になって、酢飯の寿司はそれを真似た都市文化。山の民はあえて質の悪いニガリの入った塩を好む、それで豆腐を作るから。こうした営みは連綿と縄文時代から繋がっている。著者は目に見えていない風景を次々に可視化する。
 どこで塩が取れた、鉄が取れたというだけではなく、営みの全てが自然の輪廻のようによどみなく循環していて、著者の思考もまた動的にその全体を把握しつつ細部が語られていくから、ストンとストンと腑に落ちていく。(2018.4.18)