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『春宵十話』岡潔

 高校生の頃、受験勉強が大嫌いだった。受験勉強という体裁がとにかく嫌で、暗記もイヤ、参考書は買わない、塾はもちろん行かない。だけど数学だけは恩師沢藤先生が魅力的な方で、授業を聞くだけで理解は進んだ。数学が他教科の不足を補っていた。今思うと沢藤先生は、岡潔のようにモノコトのヘソをつかんでおられたんだと思う。

人の中心は「情緒」である。

 2、3ページめくっただけで本を閉じる。思いを巡らせる。また2、3ページ進むと本を閉じる。咀嚼する。文章がわかりやすいのに立ち止まる。真意ははるか遠くにある。まるでど真ん中の直球を見逃してしまうバッターのような読書が少しづつ進む。2018年に読んだ本の中で坂口安吾と岡潔は別格で、簡潔な言葉を読み返す度に突き放されていくのがまた楽しい。 

理想の中では住めるが、理性の中では住めない。

 理想、その内容である真善美は、見たこともないのに知っているような気持ちになる。だから基調になっているのは「なつかしい」という情操だといえよう。こうしたことをわずか1ページ余でさらりと書いてしまう。「心のふるさとがなつかしい」という情操の中でなければ、生き生きとした理想は描けない。ほとんど受験とは縁のなかった田舎者でも、それで正しかったのだと胸を張る。今もみる季節の移ろいに時々郷愁を感じるのは、子供の頃に見た夕焼けや青空が重なるからだろう。(2019.1.2)