ルルラン

写真:嘉納愛夏
掲載誌
2017 『スロウ vol.50』 
2011 『住宅建築』4月号―特集 生きつづけている場所で―
2010 『Replan vol.87』

竣工年  :2009年
所在地  :北海道川上郡標茶町
用途   :住宅
構成   :夫婦
構造   :木造平屋建て
敷地面積 :555.91㎡ 167.82坪
延床面積 :86.95㎡ 26.24坪
設計期間 :2007年11月〜2008年9月
工事期間 :2008年10月〜2009年4月
施工   :有限会社 桂田工務店

北海道に冬がやってくると、JR釧網線にはSLが走る。釧路駅を出て、釧路湿原の中を黒煙を吐きながら走り抜けるSLは一時間ほどで、やがて標茶駅に着く。
標茶駅周辺には、ルルランという地名が今も残っている。ルルラン「ru・e・ran」とはアイヌ語で「路が・そこから・降っている・所」の意味。周辺環境と微地形を読み取り、アイヌ人の暮らしが成り立っていることは、地名からも顕著に伺える。敷地はこの標茶駅を眺める東側に位置し、四方に開ける見晴らしのよい土地にある。
夫婦二人の週末住宅。夫は地元の吹奏楽団でオーボエを演奏しており、仲間との練習や小さな演奏会のできる場所を、妻は料理が趣味で、気軽な喫茶店のような活動的な家を望んでいた。

マイナス25度にもなる極寒地だが、秋から冬にかけては快晴に恵まれる。開口部から射し込んだ光は土間床に蓄熱される。活動的な土間を南面に大きくとり、生活諸室を北側に配している。土間部分は屋根を高くし自然光を受入れ、生活諸室は屋根を低くおさえ北風を受け流す。
キッチンは南側に独立させて暮らしの中心とし、外観を特徴づけている。生活諸室が並ぶ板間は、入江のように土間を囲う。キッチン、ステージ、芝テラス、ルルランゲートが島状に点在し、土間はさながら大海のように外部まで広がっている。ルルランゲートは外の活動の拠点であり、駅のプラットホームのようでもある。
仕上げは石灰やモルタル、合板、和紙などどこでも手に入る材料であること、安価であること、施主自らも手入れができることを基本とした。その中で色や素材の表情、かたち、光の変化によって多様な場所と場面をつくっている。