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濱中めいようクリニック

写真:中村絵

竣工年  :2016年
所在地  :東京都調布市国領
用途   :クリニック・薬局
構造   :木造2階建て
敷地面積 :731.65㎡
延床面積 :551.88㎡
建築面積 :362.51㎡
設計期間 :2014年12月〜2016年2月
工事期間 :2016年3月〜2016年11月
施工   :江中建設

患者のための空間
いつの頃からか病院から〈日常の風景〉が失われてしまった。先生との打合せを重ねる中で、診療所は患者のための空間であるべきとの共通認識をもっていた。臨床の現場は傷つき病んだ人間を相手にしている。人間的であたたかな〈患者のための風景〉を取り戻すことを第一に考えていた。
胃腸専門の診療所ということで、最初の提案のときにこんな説明をした。
「作家の稲垣足穂は、口(O)から肛門(A)までの長いトンネルをAO円筒とよびました。トンネルが口と肛門で外でつながっているのだから、私たちは筒状の外部環境を抱えていることになります。AO円筒と呼んだ腸管には、絨毛と呼ばれる無数の突起があって、そこから体内に栄養を取り込む。今回の計画では、絨毛のような筒状の空間が中庭を抱え込み、光や風、空、時の移ろいといった外部環境を内部に取り入れるんです。」
中庭を抱え込むことで、受付と待合、中待合いにほどよい距離感をつくる。そうすることで〈ここ〉と〈あそこ〉という空間の奥行きが生まれる。診療所の中にいて患者が、今自分がどこにいるのかがわかりやすくなり、ただでさえ不安な気持ちを落ちつかせてくれる。もちろん中庭の樹々、樹々から漏れる光、そよぐ風などが直接的に身体におよぼす日常的な感覚や感情をもっとも大切にしている。傷つき病んでいる人間にとって、空間が精神に与える影響はかなり大きいと思うから。

内側にある環
診療所では「後戻りしない」患者動線を作ってほしいという要望があった。
ひとつは受付〜診察〜検査〜会計の環、もうひとつは診察〜内視鏡〜リカバリーの環。ひとつは検診など比較的症状の軽い患者、もうひとつは内視鏡で検査や手術する比較的症状の重い患者。そうしてふたつをメビウスの環のように8の字に描く動線として提案した。メビウスの環には表と裏の境界がない。よじれているから環の内側をたどるうちにいつの間にか外側に出てしまう。暗いトンネルを抜けて肛門に出たら、明るい受付にもどってきたような気分にピッタリと、この案は採用された。
ひとつの環は明/動/太陽/暖色(5R〜5GY)、もうひとつの環は暗/静/月/寒色(5BG〜5P)、と空間もそれらと呼応するよう試みた。どちらも彩度はマンセル表の2〜4におさえることで調和させつつ、対比的な空間にしている。
腸は英語で〈intestine〉、ラテン語で〈内側にあるもの〉を意味すると言う。内側にある環がもうひとつの意味空間となって、患者の心身に寄り添うことを願っている。

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